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・壊したくなどなかった。お前が美しいと云ったこの世界を。お前を。
・押しつけられた笑顔は強引で、それでいて何よりも優しかった。
だからこそ触れられなかった。
触れてくるお前を恐れた。
・それは恐らく、自分などが触れてはならない場所で
・お前の背が、誰より強かった、私には。
必要ないと言うのは容易い。
それが必要ないモノであったならば、捨てる事もまた。
「必要ない」
「ふらふらしてるくせによ」
そう言った男の顔は見えない。
背中に感じる温度が、感じた事のない奇妙な温かさを持って男の存在を示した。
「言っておくけどな、俺だってきつい」
「ならば其処に座っておればよかろう」
「俺の背中はお前に預けた」
「勝手なことを」
しかしそれでも、その温かさから離れなかったのは己の弱さか。
一度だけ振り返った。背中が見えた、西海の鬼の。
男もまた視線を感じたのか、お前は前だけ見てろよと呟いた。
男は振り返らなかった。
戦の終わりは容易い。
男は未だ背中に在った。
「うつけめ」
「おいおい、俺達が勝ったってのに、それはねぇだろ」
「何故、我に背中を任せる様な真似をした」
何故振り返る事すらしなかった
「理解できぬ」
「そりゃ、お前が強いのは誰より知ってる。お前が同盟相手裏切る程馬鹿じゃねぇことも知ってる。それに、」
言葉を遮る様に鳥が鳴いた。
それは己の鳴き声の様にすら思えた。
「俺はお前を信じてる」
鳥が再び遠くで鳴いた。
それは己の泣き声の様にすら思えた。
「・・・理解できぬ」
「まぁ・・・そのうち理解できるだろ」
「はき違えるな。我は貴様の様に、無駄な情などは持っておらぬぞ」
怒りが身を震わせた。
容易く儚い言葉を口にする男を殴りたかった。
過去が、恐怖が悩をのたうち回る。蛇の様に。
「持ってんだろ」
「・・・」
「アンタは今怒ってる。怒りだけじゃねぇ。優しさだって持ってんだろ、気付かないだけだ」
「よくも知った様な口を・・っ」
「ああ、アンタの事は深く知らねぇよ。でもな、」
男が振り返った。
鬼が。隻眼の目を細めて笑った。
(やめろそれ以上口を開くな)
「アンタの持ってる物隠してる物全部、俺の前に出させてやる。元就」
必要ないと呟いた、己には。
下らぬ情も、この男も。男が与えてくる物、全て。
けれどどうして、捨てる事はできなかったのだろう。